人気ブログランキング | 話題のタグを見る

SDA賞受賞者にお話をうかがいました。
by sda-interview
「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画
さまざまなサイン計画できわめて公共性が高く、重要であるのが、駅や空港などの交通拠点のサインではないでしょうか。
ここでは、去る2月24日に関東地区で行われたSDA大賞受賞者セミナーでの講演記録をもとに、第45回SDA賞大賞を受賞したJR西日本博多駅のサインについて、どのように計画し実行していったかを、講演者の定村俊満氏(株式会社ジーエー・タップ代表取締役社長 SDA常任理事)にポイントを押さえてまとめていただきました。



「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_1041115.jpg


JR西日本博多駅サイン計画(以下、お話しは定村氏です)

<航空機VS新幹線>
JR西日本の新幹線は、博多と新大阪を結ぶ路線がメインです。
福岡の天神から大阪の梅田まで鉄道で180分、飛行機だと155分です。
つまり新幹線の博多—大阪間の競合は航空機です。
「航空路線に対する新幹線の優位性を強めることと、
弱点をどうやって補強できるか」というのが新しい博多駅のビジネスコンセプトでした。
新幹線の優位性とは、予約なしですぐに乗れるということ。
さらに博多-大阪間は15分間隔でダイヤが組まれています。
弱い点とは航空機に比べた場合のグレード感です。
これを受けてデザインコンセプトは、
「みんなが最短距離で迷わずにすぐ乗れる駅」、
もうひとつは、「わくわくする駅」で、
青い光をたどって行けば間違いなく列車に乗れる。
黄色をたどれば出口、
さらに赤をたどって行けば在来線に、
という単純な発想です。

「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_19315780.jpg



「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_10475994.jpg新しい博多駅は新築ではなく改築です。
天井高も低いし、空間も決して広くはありません。
したがって新たにモノをつくるのではなく、壁や柱を利用してサインをデザインしています。
基本的には下がり壁と柱を利用して、LED光源をゲート状に配置しています。

「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_19323614.jpg


<サインマニュアルとの関係>
JR西日本はサインのマニュアルを持っていますが、
そのマニュアルに抵触せずに、
どこまで新しい試みが出来るかという点が課題でした。
ここで実現したサインはマニュアルに違反をしているのではなく、
マニュアルに載っていないものをデザインしています。
例えば「天上吊り下げ型サイン」というのがマニュアルに規定されているため、
柱をつけて自立型のサインにしました。
下がり壁に直接表示するという方法も、
マニュアルにはありませんので、
ルール違反しているということにはならないという解釈をさせていただきました。
「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_193392.jpg


<駅とUDデザイン>
駅内の施設は航空機に近いようなグレード感をもつデザインを心がけています。
黒がベースで、これは待合室、これはトイレです。
トイレも本当に細かいデザインをしています。
「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_19425750.jpg


「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_19492037.jpgUD導線についてもしっかりと計画しています。
エレベータの独立型スイッチボタンは地下鉄七隈線で初めて開発したものですが、
ここではさらに進化しています。

「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_19513563.jpg トイレにも音サインを設置しています。
UDトイレにはこのような操作解説板がついていますが、メーカーが準備したものはとてもわかりにくいものでした。
こういう設備も細かくデザインを調整して、変えていただきました。
「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_19435897.jpg

それから、全券売機が車いすで使えるように、
ちょっと低めで蹴込みを設けています。
サインの下の出っ張っている部分は、
視覚障害者が触れ、音が出るUDのサインです。

先ほど言いましたが、壁や柱を表示面として使っていますが、
壁は鋼板でできています。
これを切り抜いて光を出していますが、
普通は切り抜いたところに乳半の板を当てますが、
鋼板は厚みがあるので、内側の光が回り込んで、
文字や図形のエッジがにじんでしまいます。
ここではそれを防ぐため文字やピクトを象嵌しています。
「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_19441427.jpg

「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_10463019.jpg


<名称とカラーコード>
次は新しい博多駅の新幹線を含めた駅全体のデザインの話です。
博多駅の計画には行政の4つの部門と4つの交通事業者、
さらに商業施設など多くの事業者が関わっています。
具体的には、駅の西側はJR西日本、
駅の東側はJR九州、さらに地下鉄が乗り入れて、バスセンターがあり、
駅前広場は福岡市とJR九州が計画を進めます。
さらに地下通路があり、
周辺の商業施設やホテルがこれに接続しています。
これらの多様な施設の動線を連続してUD化したいという目的で、
福岡市が声かけをおこない「歩行者ネットワーク」という協議会を立ち上げました。
最終的にはUD導線だけではなく、サインの統一を進めることができました。
ここで行なったことは、まず名称の統一です。
例えば博多駅の「東口」「西口」という呼び方と、
「博多口」「筑紫口」という呼び方があります。
このような事例はほかにもたくさんありました。
さらにピクドグラムとカラーコードの統一です。
先ほど、青、黄、赤の3色で誘導するというお話をしましたが、
青はJR西日本のコーポレートカラーで、
赤はJR九州のコーポレートカラーです。
各事業者はそれぞれのコーポレートカラーを誘導に使いたいと考えていました。
これは広告的な手法で、パブリックなカラーコードではありません。
実はここが重要で、このカラーコードを統一しようとすれば、
JR九州の乗り口の色は赤になるという矛盾が出てきます。
そうではなく「乗り口は青」「出口は黄色」、
そういう調整を進めましたが、とても難しい作業でした。
さらに情報掲載基準です。
交通系の情報と商業施設の情報とは区別して考える必要があります。

<言語とピクトグラム>
それから外国語です。
福岡は4カ国の言語をサインに併記しています。
日本語、英語、中国語、韓国語です。
その取扱い方のルールを決めました。
事業者によりさまざまな地図が使われています。
これも統一しました。
そして最後は、サインの形態の統一ですが、
それぞれの施設の建築や内装の方針やデザインが違うため、
これは実現しませんでした。

「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_19541426.jpgこれはJR九州のサインです。
ピクドグラムの横に青いラインが入っています。
これが青の乗車カラーです。
地図も統一しました。
駅前広場のサインです。
この地図も共通で使われています。
ピクドグラムももちろん共通です。

「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_19562967.jpg
地下鉄、商業施設のサインです。
博多駅の地下と地上を結ぶ出入り口は全部で30箇所あります。
それぞれの出入り口は異なる事業者が管理しています。
それらにすべて共通の名前を付けています。
「西17」と書いているものがそれにあたります。待ち合わせなどに有効です。



<世界の交通施設とカラーコード>
情報のエレメントとコードのお話をします。
青が乗り口、黄色が出口などの共通コードですが、
先ほど言ったようにJRのコーポレートカラーとの混乱が見えてきます。
では世界では色彩がどの程度コード化されているのかというのを調べてみました。


「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_19452541.jpg

これは羽田空港です。
確かに乗り口はグリーン、出口は黄色です。
出発と到着というカラーコードが確立されています。
成田空港も同様です。

さらに上海の地下鉄。乗り口のグリーンはラインカラーを表現しています。
出口は黄色です。
カラーが統一的にコード化されているのはこのあたりまでです。
これは上海のマグレブです。
時速400キロが出る鉄道ですね。
ここでは出口がブルーで表示されています。
ソウルの仁川空港ではカラーコードは見当たりません。
サインはブルーに黄色です。
シンガポールのチャンギ空港です。
「Skytrain toT3」、これは第3ターミナルへ向かう乗り口です。
ここでは利便施設に青が使われています。乗り口は黄色です。
そして到着系も黄色です。
ニューヨークのエアトレインです。乗り口が黄色です。

「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_1946027.jpg

ロンドンの地下鉄には全くカラーコードは見当たりません。
パリの地図です。ここにもカラーコードはありません。
フランクフルト空港です。
黄色のサインはルフトハンザのコーポレートカラーです。
ウィーン、ここにもありません。
コペンハーゲンもありません。
それからヘルシンキのガンピバスセンター。
ということで、青もしくはグリーンと黄色のカラーコードがあるのは、
僕が発見した中では上海ぐらいまでです。
たぶんこれは日本の技術が中国に行っているのではないかという気がします。


<新幹線のピクトグラム>
次はピクトグラムのお話です。
博多駅にはJR九州とJR西日本が乗り入れています。
九州新幹線の開業で、2社が新幹線を運行することになりました。
両社の新幹線のピクトグラムを統一しようとしましたが、
これはとても難しい作業でした。
ここで新幹線のお話をします。
これは0系の新幹線です。
それから100系、200系、300系、400系、500系、僕はこの車両がが一番好きです。
そして600系、700系、N700系、これは九州新幹線、
800系、E1系、E3系はちょっとおこった顔をしています。
これは超電磁気浮上式リニアモーターカーです。
各駅で使われているピクトグラムを見てみましょう。
これは東京駅の0系をデザインしたピクトグラムです。
カラーは青とグリーンの2色があります。不思議ですね。

「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_21373493.jpg

100系のピクトグラムもあります。
これは700系、レールスターのものもあります。
0系と700系が両方同時に表示されています。面白いですね。
新幹線という文字情報は共通でピクトグラムだけは
なぜか2種類という不思議な現象が起きています。
このピクトグラムは熊本駅です。
700系が九州で運行されていますが、
ピクトグラムはなぜかN700系のものが使われています。これはJR九州の800系です。
さらに駅の外に出るともっといろんな種類のピクトグラムがあります。
なぜかどれも新幹線とわかるから不思議ですね。
新幹線の横顔をデザインしたものもあります。斜めもあります。
これは台湾の新幹線のピクトグラムです。
新幹線の顔をした電車もありました。

次はピクトグラムの色の謎を解くためのヒントです。
図のようにさまざまな新幹線の車両が開発され、
運用されています。グリーンがJR東日本系の車両です。
だから、ピクトグラムがグリーンになっています。
つまり北に行く車両はグリーンなんです。
そして東京から南に向かう東海道新幹線の車両のピクトグラムはブルーということです。

「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_2137586.jpg

各事業者は新しい車両を開発すると、
すぐにそれを使いたくなるようです。
700系が運用されると、700系のピクトグラムが表示されます。
おもしろいですね。
鉄道事業者は、みんな新幹線が大好きなのですね。
ピクトグラムをあえて統一しなくてもいいかなと思ってきました。
“WE LOVE 新幹線”。
これが僕の個人的な結論です。

「JR西日本博多駅」の事例から学ぶ公共交通拠点のサイン計画_b0246116_10423399.jpg
# by sda-interview | 2012-03-15 18:46