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SDA賞受賞者にお話をうかがいました。
by sda-interview
mt ex(マスキングテープの展示会)-前編
SDA賞受賞者インタビュー第5回目は、マスキングテープ(mt)の展示会で一世を風靡しているグラフィックデザイナーの居山浩二さんをスタジオにお訪ねしました。
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  最初に、
マスキングテープのデザインは
どのようにして生まれてきたのでしょう?

 5年ぐらい前から関わらせていただいています。
もともとは、デザイナーがいらっしゃったのですが、
その方の都合で継続していくことが難しくなり、
メーカーであるカモ井さん(カモ井加工紙株式会社)が引き継ぎを捜していました。
たまたま繋がりのあった知り合いから私のところにお話をいただき、
とても身近なもの(美大受験には欠かせないツールのひとつ)でしたし、
マスキングテープの商材としての可能性を感じたので、
商品はもちろん、パッケージやブランディングを含め
全面的に関わらせてほしいと申し出ました。
 最初に取り組んだのは、テープに柄をつけることでした。
僕が引き受けた時点では、柄のついたテープがなかったので、
色の違いだけじゃなくて、柄をつけることで
さらに可能性が広がるのではないかと思い、
ストライプやドット柄のテープをつくりました。
その後、ロゴやパッケージの見直しなど、
全体を俯瞰しながら、少しずつ細部を調整していきました。

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  そのテープを広めるためにイベントを始めたということになるんですか。

  それもありましたが、
それ以上にやってみたかったことがあって。
ひとつは空間への展開です。
mtの主な用途はラッピングやコラージュのような
デスクワーク的な使い方が基本なのですが、
このテープの最大の特徴は、簡単に貼って剥がせるというところで、
これを生かす手だてはもっとあるんじゃないかと思ったんです。
たとえば部屋とか空間に貼ったらどうだろうかと。日本の賃貸住宅で考えると、
壁紙などを取り替えても、退出時に原状復帰が大変です。
でもマスキングテープを使えば、簡単に部屋の雰囲気が変えられる。
もっと手軽に、例えばパーティーなどで1~2時間使った後、
元通りにすることだってできるわけです。
 もうひとつは、お客さんのニーズを知りたかったということ。
もっと思い切った今までに無い柄のmtを出してみたい、と思いつつも、
実際お客さんにどう受け取られるのかはかりかねる部分があったので、
展示会のような場を設けてテストマーケティングをしてみたいと思ったのです。
その会場でしか買えない限定テープとしてリリースすれば、
たくさん在庫を抱えることもなく、メーカーに負担をかけずに済むし、
逆にウケれば商品として昇格させることもできますし。


  それで早稲田にあるギャラリーで開催したのですね。

 そうです。
そのギャラリーはもともとは印刷工場で、
空間的にはユニークな魅力があったのですが、
何かのついでに立ち寄るというよりは、
わざわざそこまで見に行かなければならないような立地だったんです。
にもかかわらず、思いのほか多くのお客様がいらっしゃいました。
それまではテープ人気が盛り上がってきている、
ということは情報として知っていたものの、
目の当たりにする機会がなかったので、
会場でテープを山盛りに抱えて購入される光景に本当に驚きました。
しかも滞在時間が2時間とか3時間と非常に長いうえに、
期間中に何回もいらっしゃる。
凄いことになりつつあることを実感しました。
そこで、東京だけじゃなく、様々な地域で開催したら、
ファンは喜んでくれるだろうし、
まだ商品を知らない人たちにもアピールできる場として
機能するだろうと考えました。
それが全国展開へのきっかけでした。


  なるほど。
そうしたイベントの告知はどのような方法でされていたのですか。
また、お客さんはどのような年代で、どのような方ですか?

 告知は、DMとポスター。
それを雑貨屋さんや美術関係の学校などに置いていただいて。
あとは、カモ井さんのウェブです。
お客さんの年代は主に30代でしょうか。
今は、その上下に少しずつ広がってきて、
20代、30代、40代、50代もいらっしゃいますし、
10代も増えてきましたね。女性がほとんどですけど(笑)。
100%に近いくらいに。


  例えば広島展での写真では、
デッキまで大きく貼ってありましたが、
室内空間の中でやられていたものから、
屋外へと広がりを持っていった経緯を知りたいのですが。

 選定した会場の環境を生かしていくうちに段々そうなっていった、
というかんじです。

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  場所も、居山さんが?

 僕だったり、カモ井さんだったりです。
最近は、場所についても多くのリクエストをいただくので、
様々な面を考慮しながら選んでいますが、
最初の頃は「東京の次、どうしましょうか?」
「西でやりたいですね」「京都あたりいいんじゃないですか」
というようなやり取りを経て、決めていったんですね。
「京都だったら、どんなところか」「古いお寺とか」という具合に。
お寺は探しましたが、
さすがにテープを自由に貼らせてくださるところはどこもなかったですが(笑)。
他に歴史のある街らしい場所がないかということで、
いろいろあたっているうち、
廃校になった小学校の建物が見つかったんです。
そこには、夕暮れになるとかなり暗くなる中庭があったんですが、
動線の一部にしていたので、暗くても道が認識できるように、
また、透明感あるマスキングテープの特性を訴求することにもつながるので、
mtを表面に貼ったアクリルキューブの照明を設置しました。
そんなふうに場所に合わせてテープでできることを考えていくうちに、
屋内から外へと展開していったんですね。
広島の会場の場合は、海に面する広いデッキがあって、
そこにテープを貼ると、海とのコントラストが
すごくきれいなんじゃないかとイメージして。
場所に誘発されてテープも多様に展開していきました。
今は「天井高があるところじゃないとできない」など、
場所探しも、あらかじめ展示をイメージして空間を探すケースも増えてきました。

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  会場での施工は? 

 今は業者さんにお願いしていますが、
当初は、うちのスタッフとカモ井さんだけで空間をつくっていました。
一緒に汗を流してつくり上げた喜びから、
仲間意識のようなものが生まれた感がありました。


  一緒に空間をつくっていたら、そうなりますよね。

 作業しているときも、何がどうなるかは、
僕だけが見えていて、誰も見えていない。
終わりの見えない作業に皆さん戸惑っていたようです(笑)。


  ちなみに、そうしたイベントをずっと企画から携わっておられて、
ご苦労されたことはあるのですか?
お話をうかがっていると、発案して、場所選定だったり、
本当にカモ井さんとの信頼関係の中で、
いい意味で、自分のやりたいことが現実的にできて羨ましい限りですが。

 あくまでもカモ井さんとお客さんの双方が
ハッピーになれる事を前提にプランニングしていますが、
正直、苦労はそんなにはないんです。
強いて言うと、いわゆるイベントスペースや展示空間じゃないところを
会場にするケースが多いので、そこはテープを貼ってもらっては困ります、
というようなことがあったりするわけですね。
いくらマスキングテープとはいえ、デリケートな場所によっては、
塗装を痛めちゃうこともあるんです。
ですからそれぞれの場所でやれること、
やれないことがあって、それはできないとなった時の対応が
大変と言えるかもしれないです。


  基本は、直に貼っているわけですか。

 貼っています。ただ、基材が色の濃いものだったりする場合は、
それが透けてmtの色・柄に影響してしまうので、
ベースに白いテープを貼った上にmtを貼ることもあります。
また脆い基材の場合には、粘着力の弱いテープをベースにしたり。
次は熊本で開催するんですが、明治に建てられた元・お酒の醸造場で、
140年近い年月が経っているところなので、表面の古い、
すすけた感じがテープの糊で剥がれてしまいそうで。
貼らずに空間のポテンシャルを生かすことを考えています。

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後編へつづく
by sda-interview | 2013-03-29 22:51
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